ファン・ゴッホ その生涯と作品

本書は「ファン・ゴッホの生涯とその時代」と「ギャラリー」の2部で構成され、フィンセント・ファン・ゴッホの人生と作品が紹介・解説されています。まず、「ファン・ゴッホの生涯とその時代」は、「奇妙な生い立ち」「手に負えない子供」「日本と浮世絵」「アルル――春と新たな生命」「太陽の衝撃」などの42の章からなり、ゴッホに関連する絵画作品や人物、建築物、風景の写真など、多くの図版を使って、ゴッホのそのときどきの生活や同時代の状況が説明されています。たとえば、「自然と絵画の中の色彩」の章では、パリで目にしたウジェーヌ・ドラクロワとアドルフ・モンティセリの絵に影響されたことから、1886年の夏に、ゴッホが彼らの手法を真似て花の絵を集中して描き始めたことが記され、ドラクロワ、モンティセリ、ゴッホ、それぞれが描いた花の絵が掲載されています。また、「ゴーギャンを待ちながら」の章では、芸術家の共同体を構想し、ポール・ゴーギャンを南フランスのアルルに呼ぼうとしている頃のゴッホの様子が記され、ゴーギャンと友人エミール・ベルナールがゴッホに捧げた自画像と、ゴッホがゴーギャンに捧げた自画像が掲載されています。次に「ギャラリー」は、「イングランドと北ヨーロッパ」「パリ」「アルル」「サン＝レミ」「オーヴェル＝シュル＝オワーズ」の5つの章からなり、各時期のゴッホの作品が解説とともに紹介されています。図版は1ページに1～3点で、多くは2点掲載のページとなっています。すべてカラー印刷であり、ゴッホ作品の鮮やかな色彩を楽しむことができます。「ギャラリー」のはじめには、「独創的な絵を激情の赴くままに描く画家」というゴッホのイメージはほとんど事実ではなく、「実際のゴッホは、画題の選択においても描き方の点においても、周到に吟味し、試行錯誤を重ねる画家だった」と記されています(p.99)。作品を眺めていくと、ゴッホが働く人の姿や知り合った人々の肖像、自画像、素朴な風景、樹木、花、使い込まれた家具や日用品などのモチーフを好み、繰り返し描いた画家であることに気づかされます。本書では、ゴッホの生涯と作品がバランスよく紹介されており、ゴッホの生活と芸術に興味のある方に格好の一冊となっています。