方丈記: 創業90周年企画 (マンガ古典文学シリーズ)

鴨長明「方丈記」の全容を漫画化した本です。巻末に「方丈記」の全文が掲載されています。響きのいい名文であり名調子の日本語です。長く日本人に膾炙されている所以です。「方丈記」が書かれた時代は平安中期で天災、大火、戦乱、政治的混乱で京の都は荒廃していました。そんな時代の長明の生き方をビジュアルに描いています。文字では表現できないリアルさです。鴨長明は、神官の跡継ぎ争いに敗れ、自慢の和歌や琵琶演奏も認められず貴族社会に受け入れてもらえません。自分の才能に自身がありましたが、負け組となりプライドが傷つき老境で出家し人里離れた地での一人暮らしをします。世捨て人、隠者として小さな小屋を立て、最晩年をそこで暮らします。この小屋で「方丈記」を完成させます。描かれている暮らしぶりは自然に囲まれ、花鳥風月を愛でるシンプルライフ実践派のアウトドアライフのようです。俗世間から離れ、世の煩わしさから離れて、いかにも優雅に響く文章です。これは本当でしょうか、どうもウソっぽく響きます。でなければ居直ってのやせ我慢か奇をてらっているだけでしょう。現代でも電気ガス水道などの文明の利器がない山の中で、没世間で生きていこうと思えば困難を極めます。試しに一週間ほど過ごせば辛さ苦しさが骨身にしみるでしょう。ましてや定収もなくスポンサーもなしの乞食坊主の長明です。食うものにも着るものにも不自由の日々だったでしょう。鴨長明は、時々、都にふらっと出向いていました。特に何か用があったわけではありません。浮世の匂いを嗅ぎにでかけたのでしょう。かっての知己で歌人の源家長が長明を見て、あまりの激痩せぶりに驚いています。それでも長明は頑健だったのでしょう。61歳まで生きながらえました。