中国火車旅行 (角川文庫)

中国の長距離列車を10回近く利用しているが、運行の正確さ、乗り心地の良さ（揺れない！）には毎回感心させられる。この本を読むと、自分自身の様々な乗車体験が思い出され、「また乗りたいなあ」という気持ちが掻き立てられる。宮脇さんの他の著書にも共通する、文章のリズム感の良さ、詳細かつ活き活きとした描写力には「恐れ入りました」と感服する他無し。中でも人物の描き方は素晴らしく、飄々とした同行の中西千明氏や、しっかり者かつ働き者の現地ガイドの鮑さんに関する描写は秀逸と言うに尽きる。南京の「長江大橋」を渡る際の「川の部分の所要時分は2分36秒であった」という記載には思わず吹き出してしまったが、こういうマニアックな部分と、一般的な「読み物」としてのレベルの高さが極めて高次元で両立しているのに舌を巻く。尚、この本で描かれる中国は約30年前の世界。その後のこの国の激変ぶりを思うと、別の意味で感慨深い。上海⇒ウルムチの所要時間は今や当時の半分にまで短縮されているし、高速鉄道の急拡大で中国の鉄道の様相も変わりつつある。この本も、そのうち「貴重な歴史の記録」となってしまうのだろうか？